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お口の健康
抜いた歯の歯髄で骨の再生? 歯周病やインプラント治療への応用が期待される新技術

むし歯が進行すると、夜も眠れないほどの激しい歯の痛みが生じることがあります。

「先生、歯が痛い! 早く神経を取ってください!!」

ときには邪魔な存在に感じる歯の神経ですが、実は、かなりの有望株なのです。

何の有望株かって?

将来、あなたの健康に役立つかもしれない、再生医療の有望株です。

歯の内部には、神経や血管を含む「歯髄(しずい)」という組織があります。

この歯髄には、さまざまな種類の細胞に変化する能力を持つ「幹細胞」が存在しています。

幹細胞とは、自分自身を増やす能力と、さまざまな種類の細胞に変化する能力を持つ細胞のことです。この変化を専門用語で「分化」といいます。

歯髄の中に存在する幹細胞、「歯髄幹細胞」も、一定の条件下で骨や軟骨などを形成する細胞へと分化する能力を持っています。

歯髄は、将来、失われた組織の再生に役立つ可能性を秘めているのです。

日本歯科大学が開発した新しい再生医療技術

まだマウス実験の段階のものですが、2026年9月、日本歯科大学の研究チームは、歯髄幹細胞を利用した骨の再生医療への応用が期待される新しい技術を発表しました。

歯髄幹細胞は、親知らずや乳歯などからも採取できるため、通常は廃棄される歯を医療資源として有効活用できる、サステナブルな側面も持っています。

今回の研究では、歯髄幹細胞の培養方法を工夫することで、厚みと強度のある「細胞シート」の作製に成功しました。

さらに、この細胞シートで人工骨の材料を包み込んでマウスに移植したところ、新しい硬い組織の形成が促進される結果が得られました。

インプラント治療への応用

インプラント治療では、人工歯根を支えるために十分な顎の骨が必要です。

しかし、歯周病や抜歯後の骨吸収などによって骨の量が不足している場合、骨補填材を用いた骨造成が必要になることがあります。

今回開発された細胞シートは、人工骨の材料を包み込んでまとめることができ、さらに骨の形成を促す可能性も示されています。

将来的にはより効果的な骨再生治療につながることが期待されます。

歯周病で失われた歯槽骨も再生できる?

歯周病は、歯を支えている歯槽骨が徐々に吸収される病気です。進行すると歯を支える骨が減少し、最終的には歯が抜けてしまうこともあります。

現在でも、歯周組織再生療法によって、失われた骨の再生を目指すことができます。しかし、十分な再生効果が期待できる骨欠損の形態は限られています。

今回開発された細胞シートは、人工骨の材料を包み込むことができるため、骨が失われた部分の形に合わせて人工骨を配置しやすくなる可能性があります。

さらに、細胞シート自体にも硬い組織の形成を促す働きが期待されることから、将来的には、より効果的な歯周組織再生療法が可能になるかもしれません。

実用化には費用面の課題も

歯髄幹細胞を利用した再生医療が実用化された場合、課題となるのが費用です。

将来の治療に備えて抜いた歯や採取した細胞を保管する場合、保存や品質管理のための費用が発生する可能性があります。

また、実際に治療を受ける際には、幹細胞の培養、細胞シートの作製、品質検査などに加えて、再生医療に伴う技術料も必要になると考えられます。

こうした工程には専門的な設備や厳格な管理体制が必要です。

さらに、自分の細胞を利用する場合には、患者さんごとに細胞を準備する必要があり、大量生産による費用削減が難しくなる可能性もあります。

今回の研究では具体的な臨床費用は示されていませんが、将来的に広く普及するためには、安全性や治療効果に加えて、費用負担をどこまで抑えられるかも重要な課題となります。

将来に期待

今回の研究は、歯髄幹細胞を利用して、取り扱いやすい多層細胞シートを作製できることを示したものです。

ただし、今回の研究では人工骨材料と組み合わせて効果を検証しており、細胞シートだけで骨を再生できることが確認されたわけではありません。

さらに研究が進み、人工骨材料を使用せず、自分自身の細胞だけで骨を再生できるようになれば、治療の可能性は大きく広がるでしょう。

その応用範囲は口腔内にとどまらず、外傷や病気によって失われた全身の骨の再生にも広がるかもしれません。

今後、安全性や治療効果、費用面などの課題が解決され、再生医療における新たな治療の選択肢となることが期待されます。

頑張れ、歯髄!

参考文献

  1. Mochizuki M, Nakahara T. Self-multilayered cell sheet generated by dental pulp stem cells provides a mechanically quantifiable regenerative graft for bone tissue engineering. Stem Cell Research & Therapy. 2026. Published September 22, 2026. https://doi.org/10.1186/s13287-026-05304-x
  2. Asghari S, et al. Regenerative potential of Dental Pulp Stem Cells (DPSCs) in dental and periodontal tissue engineering: a systematic review of preclinical and clinical studies. BMC Oral Health. 2026;26:947. https://doi.org/10.1186/s12903-026-08420-5

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