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「仕上げみがきをしようとすると、嫌がって逃げてしまう」
「毎日のように泣かれて、歯みがきの時間が親子ともにストレスになっている」
小さなお子さんの歯みがきについて、このような悩みをお持ちの保護者の方は少なくありません。
むし歯にさせたくないと思うほど、「きちんとみがかなければ」「全部きれいにしなければ」と考えてしまうものです。
その結果、嫌がる子どもを押さえながら仕上げみがきをすることになり、歯みがきの時間が親子双方にとってストレスの時間になってはいないでしょうか。
もちろん、歯についたプラークを落とすことは大切です。
しかし幼児期は、嫌がる子どもを毎回長時間押さえつけて、100点の歯みがきをすることだけが目標ではありません。
大切なのは、できるだけ親子双方にストレスをかけずに、「歯をみがくのは毎日の当たり前のこと」という習慣を少しずつ身につけていくことです。
子どもが歯みがきを嫌がるのは、珍しいことではない
乳幼児期は、心も体も大きく発達している時期です。自我が芽生え、「自分でやりたい」「今はやりたくない」という気持ちも強くなります。
また、口の中は敏感な場所です。唇や頬を触られたり、歯ブラシを口の中に入れられたりすること自体を嫌がる子もいます。
さらに、眠い、疲れている、遊びを中断されたくないなど、その日の状況によって反応が変わることもあります。
こうした子どもの気持ちやその日の状態も考慮しながら、毎回同じやり方にこだわらず、臨機応変に対応していきましょう。
毎回100点の歯みがきを目指さなくても大丈夫
子どもが強く嫌がっているのに、毎回長時間押さえつけて100点の歯みがきを目指すと、歯みがきそのものを強く嫌がるようになってしまうことがあります。
幼児期にまず大切にしたいのは、
「食べたら歯をみがく」
「寝る前には歯をみがく」
「歯みがきは毎日するもの」
という習慣をつくることです。
今日は十分にみがけなかったとしても、短時間でも歯ブラシをする。そして翌日もまた続ける。
毎日の積み重ねによって、歯みがきを食事やお風呂、着替えと同じような生活習慣にしていきます。
特に、子どもが強く嫌がっているときや、保護者の方自身に余裕がないときまで、無理に長時間みがく必要はありません。
そんな日は10秒、20秒でも構いません。短い時間でも歯ブラシをすることを大切にしましょう。
「今日は少ししかできなかった」という日があっても、それだけですぐにむし歯になるわけではありません。
毎回の歯みがきの完成度だけを見るのではなく、「今日も歯みがきをした」という習慣を途切れさせないことを、長い目で考えていきましょう。
叱ったりするより、前向きな声かけを
子どもが泣いていると、「動かない」「むし歯になるよ!」と言いたくなることもあると思います。
また、なかなか言うことを聞いてくれないと、つい叱ったり、声を荒らげてしまうこともあるかもしれません。特に、保護者の方自身が疲れているときには、余裕を持って対応することが難しいこともあります。

しかし、毎日の歯みがきで「嫌だね」「ごめんね」といった言葉や叱ることが繰り返されると、子ども自身も歯みがきを「嫌なこと」と受け止めやすくなる可能性があります。
それよりも、
「きれいになってきたね」
「上手だね」
「大きなお口できたね」
「ピカピカになったね」
など、できたことを前向きに伝えてあげるとよいでしょう。
無理に機嫌を取る必要はありません。
大切なのは、歯みがきを必要以上にネガティブな時間にしないことです。
もちろん、いつも穏やかに対応できるとは限りません。うまくいかない日があっても、翌日また前向きな声をかけていけば十分です。
小さいころから、口の周りを触られることに慣れてもらう
歯が生えてから突然、長時間の仕上げみがきを始めるよりも、小さいころから頬や唇、口の周りを優しく触るなどして、口元を触られることに少しずつ慣れてもらう方法もあります。
最初から長時間みがく必要はありません。
・歯ブラシを口元に触れる。
・少しだけ歯をみがく。
・慣れてきたら、みがく範囲を少しずつ広げていく。
このように、子どもの成長や性格に合わせながら段階的に進めていきます。
仕上げみがきも、単なる「歯の掃除」ではなく、親子が顔を合わせて行う毎日のコミュニケーションの一つと考えてみてもよいでしょう。
嫌がるときは、その子に合った方法を探す
歯みがきの歌を歌ったり、歯みがき用の動画やアプリを使ったりすると、比較的スムーズにみがかせてくれる子もいます。
好きな歯ブラシを自分で選んでもらう方法が合う子もいます。
一方で、そうした方法がまったく効果のない子もいます。兄弟であっても性格は違います。
「この方法なら必ずうまくいく」というものを探すより、その子に合った方法をいくつか試しながら、無理なく続けられる方法を見つけていくことが大切です。
急に歯みがきを嫌がるようになったときは
もともと普通に歯みがきができていた子が、急に強く嫌がるようになった場合には注意が必要です。
特定の場所をみがくときだけ嫌がる、歯ブラシを当てると痛がるといった場合には、単なる歯みがき嫌いではないこともあります。
むし歯、口内炎、歯ぐきの炎症、新しい歯が生えてくることなどによって、痛みや違和感が生じている可能性もあります。
気になる場合は、一度歯科医院で確認してもらいましょう。
むし歯予防では、毎日の食習慣がとても大切です
ここまで、毎回100点の歯みがきを目指さなくても大丈夫だとお伝えしてきました。
その理由のひとつは、むし歯になるかどうかが歯みがきだけで決まるわけではないからです。
歯みがきはもちろん大切です。しかし当院では、幼児期のむし歯予防を考えるうえで、毎日の食習慣を特に大切にしています。
どれだけていねいにみがいていても、甘いものを口にする回数が多ければ、むし歯のリスクは高くなります。
お菓子や甘い飲み物を一日中だらだら口にしていると、口の中がむし歯になりやすい環境になる時間が長くなります。
そのため、間食の時間をある程度決め、だらだら食べる習慣をつくらないことが大切です。
ジュースや甘い飲み物を、水分補給のように一日中少しずつ飲む習慣にも注意したいところです。
むし歯予防では「何を食べるか」だけでなく、「どのくらいの頻度で口にするか」もとても重要です。
そして、間食の頻度とあわせて考えたいのが、日頃からどの程度「甘い味」に慣れているかということです。
子どもはもともと甘い味を好む傾向があります。
だからこそ、小さいころから甘い飲み物や甘味の強い食品が日常になり、「強い甘さが当たり前」という食生活に偏らないようにすることも大切だと当院では考えています。
「三つ子の魂百まで」―幼児期の習慣が将来の土台
「三つ子の魂百まで」という言葉があります。
味覚そのものが3歳までに完成し、その後一生変わらないというわけではありません。しかし幼児期は、その後の生活習慣や食の好みの土台がつくられる大切な時期です。
当院では、幼児期から、
「歯をみがくのは当たり前」
「だらだら食べない」
「強い甘さに慣れすぎない」
という習慣を少しずつ身につけていくことが大切だと考えています。
そして歯みがきについても、毎回完璧にみがくことだけにこだわるのではなく、できるだけ親子双方にストレスをかけずに、「毎日歯ブラシをする」という習慣そのものを身につけることが大切です。
幼児期にこうした習慣をつくっていくことが、将来にわたって続くむし歯予防の土台になります。
参考文献
井上美津子・片山育子・西村滋美・原 聡・宗田友紀子 著,藤岡万里 監著.
『妊婦、赤ちゃん、子どもの診かたがわかる本―マタニティ期も出産後も、保護者と小児の口腔と健康のために歯科ができること』.クインテッセンス出版株式会社.







