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「現代人は昔に比べて柔らかいものを食べるようになり、噛む機会が減ったことで顎の骨が十分に発達しなくなった。そのため、親知らずの生える場所がなくなった」。
こうした説明を耳にしたことはないでしょうか。
確かに、食生活や噛む習慣が顎の発育に影響することは考えられますが、本当に現代人の顎は小さくなっているのでしょうか。また、それだけで親知らずが正常に生えてこない理由を説明できるのでしょうか。
日本人の顎は本当に小さくなっている?
縄文時代から現代にかけて、顎の骨の形が変化してきたことを示す研究があります。

関東地方の古い時代と近現代の人骨を比較した研究では、下顎の骨の幅が狭くなり、噛むときに使う筋肉が付着する部分の発達も弱くなっていることが報告されています(文献1)。
一方、ここ数十年の変化については、異なる研究結果もあります。
2006年に発表された研究では、歯並びの治療を受ける患者さんのデータなどを検討した結果、歯の幅はやや大きくなっているものの、顎の骨は必ずしも小さくなっていないことが示されました(文献2)。
こうした研究結果は、日本人の顎の変化を考えるうえで、重要な視点の一つです。

ただし、数千年という長い時間の中では、食生活や生活様式の変化だけでなく、縄文人と弥生人のような遺伝的背景の異なる集団の影響や、地域差なども考慮する必要があります。
また、ここ数十年の研究結果を見ても、日本人の顎が一律に小さくなっているとは断定できないのです。
むしろ、歯は大きくなっているという研究も
興味深いことに、日本人の歯は、近年大きくなる傾向にあるという研究も報告されています。
1993年の研究では、1940年代生まれと1950〜60年代生まれの計682人を比較しました。
その結果、若い世代では歯の幅が大きく、特に頬側から舌側までの幅が増している傾向が認められました(文献3)。
さらに2014年の研究では、1940年代生まれと1980〜90年代生まれを比較し、半数以上の種類の歯で、若い世代の方が歯の幅が大きいという結果が得られています(文献4)。
ただし、これらの研究結果についても、慎重な解釈が必要です。歯の大きさには遺伝的な背景や個人差、地域差などが関係しており、限られた調査対象から得られた結果を、日本人全体に当てはめることには慎重であるべきでしょう。
それでも、顎の大きさだけでなく、歯そのものの大きさが時代とともに変化している可能性にも目を向ける必要があります。
親知らずは抜いた方がよいのか?
ここまで、顎や歯の大きさが時代とともに変化している可能性を示す研究を紹介してきました。しかし、これらは集団としての傾向を示したものであり、実際には顎や歯の大きさには大きな個人差があります。
親知らずは、手前の第二大臼歯の後ろにあるスペースや、親知らずの位置、生えてくる方向などによって、その生え方が変わってきます。
親知らずの生え方によっては、歯ブラシが届きにくく、むし歯や周囲の歯ぐきの炎症を起こすことがあります。

また、手前の第二大臼歯にむし歯や歯周病が生じたり、親知らずが第二大臼歯の歯根に接して、歯根吸収を引き起こしたりすることもあります。
こうした問題が認められる場合には、抜歯が必要になることがあります。
一方、正常に生えて噛む機能を果たし、十分に清掃できている親知らずや、骨の中に埋まっていても病変がなく、将来的なリスクが低いと判断される親知らずは、必ずしも抜く必要はありません。
2020年には、これまでに行われた研究をまとめて検証した報告が発表されています。
その中では、骨の中などに埋まっていて、症状や病変のない親知らずについて、予防的に抜くことと、そのまま残すことのどちらが優れているかを判断する十分な科学的根拠はないとされています(文献5)。
ただし、正常に生えていても、十分に歯磨きができない状態が続く親知らずについては、私自身の臨床経験から、抜歯をお勧めしています。
親知らず自体にむし歯や歯周病が生じるだけでなく、手前の第二大臼歯にまで悪影響を及ぼすケースを数多く経験してきたためです。

親知らずを残すかどうかは、手前の大切な歯を守るという視点からも考える必要があります。
また、抜歯せずに残す場合にも、定期的な診察や必要に応じたレントゲン検査などで状態を確認することが大切です。
一方で、親知らずには別の利用価値もあります。
条件が合えば、失った奥歯の代わりとして、自分の親知らずを移植する「自家歯牙移植」という治療に利用できる場合があります(文献6)。
すべての親知らずが移植に適しているわけではありませんが、将来の治療に役立つ可能性があることも、残すかどうかを考える際の一つの要素になります。
親知らずの抜歯は、一人ひとりに合わせた判断を
「現代人は顎が小さくなったから、親知らずを抜かなければならない」という説明は、現在の科学的な知見からすると単純化しすぎているように感じます。
親知らずの抜歯が必要かどうかは、顎の大きさだけで判断するのではなく、むし歯や歯周病の有無、手前の歯への影響、将来的なリスク、抜歯に伴う負担などを総合的に評価することが重要です。
現在の状態を正しく把握し、長期的なお口の健康を考えながら、一人ひとりに合った対応を選択することが大切です。
参考文献
- Kaifu Y. Changes in mandibular morphology from the Jomon to modern periods in eastern Japan. Am J Phys Anthropol. 1997;104(2):227–243.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9386829/ - 梶井貴史, Alam MK, 飯田順一郎. 叢生発症率の経年変化を探る―歯冠幅径と顎骨の大きさの経年変化について―. 北海道矯正歯科学会雑誌. 2006;34(1):15–22.
https://doi.org/10.20760/dokyo.34.1_15 - Suzuki N. Generational differences in size and morphology of tooth crowns in the young modern Japanese. Anthropol Sci. 1993;101(4):405–429.
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https://doi.org/10.15017/1495445 - Ghaeminia H, Nienhuijs MEL, Toedtling V, et al. Surgical removal versus retention for the management of asymptomatic disease-free impacted wisdom teeth. Cochrane Database Syst Rev. 2020;5.
https://doi.org/10.1002/14651858.CD003879.pub5 - Huang J, Gan Y, Han S, et al. Outcomes of autotransplanted third molars with complete root formation: a systemic review and meta-analysis. J Evid Based Dent Pract. 2023;23(2):101842.
https://doi.org/10.1016/j.jebdp.2023.101842







