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「歯がグラグラしているので、もう抜かなければならないのでしょうか?」
自分の歯が動き始めると、「この歯はもう残せないのでは」と不安になる方は少なくありません。たしかに歯の動揺は、歯周病が進行したときなどにみられる重要な症状です。しかし、グラグラしているという理由だけで、すぐに抜歯が必要になるわけではありません。
大切なのは「どのくらいグラグラしているか」だけではなく、「なぜその歯がグラグラしているのか」を診断することです。
歯がグラグラする主な原因
歯の動揺と聞くと、まず歯周病を思い浮かべる方が多いと思います。歯周病が進行すると歯を支える歯槽骨が失われ、歯が動きやすくなります。しかし、原因はそれだけではありません。
- 歯周病:歯槽骨が失われ、歯の支えが少なくなる
- 歯の破折:歯の一部や歯根が割れている
- 噛み合わせ:一部の歯に過剰な力が集中している
- 矯正治療:歯の移動にともなって一時的に動揺する
- 差し歯・被せ物の接着力の低下や脱離:歯根ではなく、被せ物だけが動いている
このように、「グラグラする」という症状が同じでも、その背景はまったく異なる可能性があります。だからこそ、「動いているから抜歯」と短絡的に判断するのではなく、何が原因で動いているのかを正しく診断することが欠かせません。
歯周病が進行していても、すぐに抜歯とは限らない
歯周病が進行すると、歯を支える骨が減り、歯の動揺は大きくなります。それでも、状態によっては隣の歯と固定したうえで歯周病治療を行い、すぐに抜歯せずに維持できることがあります。
また、歯周組織の炎症が強い場合には、炎症によって歯根膜などの状態が変化し、動揺が大きくなっていることもあります。プラークや歯石、歯周ポケット内や歯根面のバイオフィルムをコントロールし、歯周組織の炎症が改善すると、治療前より動揺が小さくなることがあります。

実際、歯周治療後の歯を長期間観察した研究でも、歯の動揺は重要な所見ではあるものの、動揺の大きさだけでその歯の予後を決めることはできないことが示されています。[1]
つまり、
「今グラグラしている=この歯はもう残せない」
とは限らないのです。
固定は「治療の完了」ではない
動揺した歯を隣の歯と固定すると、ぐらつきが減り、噛みやすくなることがあります。そのため患者さんご自身も、「歯がしっかりしたので治った」と感じやすくなります。
しかし、ここで注意が必要です。固定は歯周病そのものを治す治療ではありません。固定によって歯の動きを抑えることはできても、歯周病の原因となる細菌性バイオフィルムがなくなるわけではないからです。
実験研究でも、歯を固定すること自体によって、プラークによる歯周組織の破壊をコントロールできるわけではないことが示されています。[3]
歯をできるだけ長く維持するためには、日常のプラークコントロールに加えて、歯科医院で歯周ポケット内や歯根面のバイオフィルムを継続的に管理し、炎症を抑えていくことが重要です。良好なプラークコントロールを継続することが、治療後の歯周組織を安定させるうえで重要であることも、以前から臨床研究で示されています。[2]
「固定=治療終了」ではなく、「固定したうえで、継続的に歯周病を管理する」ことが重要です。
歯の一部が割れて、部分的にグラグラしている場合
歯そのものではなく、割れた歯の一部がグラグラしている場合もあります。この場合は、破折した位置や深さによって対応が大きく変わります。
比較的浅い位置での破折で、健全な歯質が十分に残っていれば、大きな処置を行わず、被せ物などで修復できることがあります。
一方、破折が歯ぐきの深い位置まで及んでいる場合でも、すぐに抜歯とは限りません。状態によっては、歯周外科処置によって健全な歯質を露出させたり、矯正の力を利用して歯を引き上げる「矯正的挺出」を行ったりすることで、歯を保存できる場合があります。矯正的挺出は、歯ぐきより深い位置まで及んだ歯冠・歯根破折を保存するための選択肢の一つとして報告されています。[5]
症例によっては、いったん歯を抜いて処置を行い、元の位置に戻す「意図的再植」が選択肢になることもあります。
ただし、破折の位置が深すぎる場合や、残っている健全な歯質が少ない場合には、保存が難しくなります。
対応が難しいのが歯根破折
歯の破折のなかでも、特に対応が難しいのが歯根破折です。歯根そのものが割れている場合には保存が難しく、抜歯が必要になるケースも少なくありません。
とはいえ、すべての歯根破折が直ちに抜歯になるわけではありません。ごく限られた症例では、歯をいったん抜いて破折部分を接着し、再び元の位置に戻す方法によって、一定期間歯を維持できることがあります。
ただし、この方法を扱った研究では、しばらく機能した例がある一方で、再び割れたり炎症が戻ったりして失敗した例も報告されています。[6] 長期的な予後は決して楽観できるものではありません。
こうした治療が可能かどうかは、歯根の形、破折線の位置や方向、歯の場所、周囲の骨の状態などによって大きく左右されます。
そのため歯根破折では、「必ず残せる」と考えるのではなく、治療の難易度、予後、再治療の可能性まで含めて慎重に判断する必要があります。
差し歯・被せ物が動いている場合
「差し歯がグラグラする」という場合、歯根そのものが動いているとは限りません。差し歯や被せ物を固定している接着材が弱くなったり、内部の土台が外れたりして、被せ物だけが動いていることがあります。
歯根が十分に保存できる状態であれば、被せ物や土台をやり直すことで対応できる場合があります。一方、被せ物の内部でむし歯が進行し、歯ぐきより深い位置まで歯質が失われている場合には、矯正的挺出や歯周外科処置が必要になることもあります。
また、内部に歯根破折が隠れていることもあるため、レントゲン検査などを含めた診断が必要です。
矯正治療中の一時的な動揺
矯正治療中にも、歯がグラグラすることがあります。
矯正治療では、歯に力を加え、歯根膜や周囲の骨を変化させながら歯を移動させるため、その過程で一時的に歯の動揺が大きくなることがあります。
これは矯正治療にともなってみられる反応の一つで、矯正力がなくなり、治療後に歯の周囲の組織が安定すると、動揺も改善していくのが一般的です。
ただし、動揺が通常より著しく大きい場合や、歯周病を併発している場合には、歯周組織や矯正力の状態を確認する必要があります。
噛み合わせの力による動揺
噛み合わせの不調和によって一部の歯に過剰な力が集中すると、その歯が動揺することがあります。このような状態を「咬合性外傷」と呼ぶことがあり、歯ぎしりや食いしばりなどが関係している場合もあります。
このようなケースでは、過剰な力の原因を取り除いたり、必要に応じて噛み合わせを調整したりすることで、動揺が改善することがあります。
歯がグラグラしていても、必ずしも歯を支える骨が大きく失われているとは限りません。咬合性外傷についても、歯の動揺を含む複数の所見から総合的に診断することが重要です。[4]
ただし、歯周病を併発している場合には、力の問題だけでなく、歯周病治療と噛み合わせに対する治療を並行して行う必要があることもあります。
抜歯を検討するのはどのような歯か
抜歯が必要かどうかは、歯の動揺の大きさだけでは決められません。実際には、次のような要素を総合的に評価します。
- 残っている歯槽骨の量
- 歯周ポケットの深さ
- 炎症や排膿の有無
- 歯周治療に対する反応
- 歯根の状態や破折の有無
- 噛み合わせ
- 治療後に清掃・管理できる状態をつくれるか
- 周囲の歯や歯槽骨への影響
治療を行っても十分な改善が期待できない場合や、無理に残すことで感染や骨吸収を繰り返し、周囲の組織に悪影響を及ぼす可能性が高い場合には、抜歯を検討します。
動揺の大きさだけを見て抜歯の適否を決めるのではなく、原因や治療への反応を含めて判断することが重要です。
残すことのメリットとデメリットを考える
天然の歯は、可能であればできるだけ長く残したいものです。しかし、「どのような状態でも、とにかく残せばよい」というわけでもありません。
予後が極めて悪い歯を無理に残すことで、痛みや腫れを繰り返したり、感染が続いたり、周囲の骨がさらに失われたりすることがあります。
また、著しく動揺している歯では、ブラッシングをしても歯そのものが動いてしまい、歯ブラシの毛先を歯面に安定して当てにくくなります。さらに、痛みや不快感を避けようとして十分に磨けなくなることもあり、結果としてプラークが残りやすくなる場合があります。
そのため、動揺の大きな歯を残す場合には、「治療によって残せるか」だけでなく、**「その歯を今後きちんと清掃し、管理し続けられるか」**という視点も重要になります。
全身状態や生活環境も含めて判断
歯を残すか抜歯するかを考える際には、その歯だけを見るのではなく、患者さんの全身状態や生活環境も考慮する必要があります。
例えば、糖尿病のコントロール状態、がん治療の状況、免疫機能、骨粗鬆症などに対して使用している薬剤によっては、口腔内に感染源を残すことの影響についても考える必要があります。
一方で、全身状態や服用している薬剤によっては、抜歯そのものにも注意が必要になります。
したがって、「残すリスク」と「抜歯するリスク」の両方を考えることが重要です。
また、高齢の方や寝たきりの方、ご自身で十分な口腔清掃を行うことが難しい方では、現在その歯を残せるかということだけではなく、今後その歯を清潔に維持していけるかという視点も大切になります。
大切なのは、
「グラグラしているから抜く」でも、「何があっても残す」でもありません。
なぜその歯が動いているのかを診断し、治療によってどこまで改善できるのか、長期的にどの程度維持できる可能性があるのか。さらに、全身状態や服薬、生活環境、将来的な口腔ケアのしやすさ、治療に伴う負担まで含め、その患者さんにとって歯を残すことに本当にメリットがあるのかを総合的に考えて、治療方針を決めることが大切です。
参考文献
- Fleszar TJ, Knowles JW, Morrison EC, Burgett FG, Nissle RR, Ramfjord SP. Tooth mobility and periodontal therapy. J Clin Periodontol. 1980;7(6):495-505. doi:10.1111/j.1600-051X.1980.tb02156.x.
- Rosling B, Nyman S, Lindhe J. The effect of systematic plaque control on bone regeneration in infrabony pockets. J Clin Periodontol. 1976;3(1):38-53. doi:10.1111/j.1600-051X.1976.tb01849.x.
- Ericsson I, Giargia M, Lindhe J, Neiderud AM. Progression of periodontal tissue destruction at splinted/non-splinted teeth. An experimental study in the dog. J Clin Periodontol. 1993;20(10):693-698. doi:10.1111/j.1600-051X.1993.tb00693.x.
- Fan J, Caton JG. Occlusal trauma and excessive occlusal forces: Narrative review, case definitions, and diagnostic considerations. J Periodontol. 2018;89(Suppl 1):S214-S222. doi:10.1002/JPER.16-0581.
- de Faria LP, de Almeida MM, Amaral MF, Pellizzer EP, Okamoto R, Mendonça MR. Orthodontic extrusion as treatment option for crown-root fracture: Literature review with systematic criteria. J Contemp Dent Pract.2015;16(9):758-762. doi:10.5005/jp-journals-10024-1753.
- Hayashi M, Kinomoto Y, Takeshige F, Ebisu S. Prognosis of intentional replantation of vertically fractured roots reconstructed with dentin-bonded resin. J Endod. 2004;30(3):145-148. doi:10.1097/00004770-200403000-00005.







