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2026.07.13
お口の健康
フッ素は危険? 科学的根拠から考える歯科用フッ化物の安全性

現在、歯科でむし歯予防に使用されているフッ化物は、適切な濃度と使用方法を守れば、安全性と有効性が 多くの研究で示されています。1−5

一方、インターネットでは「フッ素は危険」「毒性がある」「IQが下がる」といった情報を目にし、不安を 感じる方も少なくありません。

こうした情報を理解するうえで重要なのは、

• どの化学物質について話しているのか

• どのくらいの量に、どのような経路でさらされるのか

 という2点です。

フッ素とフッ化物は同じものなのでしょうか? 

同じではありません。

「フッ素」という言葉は広く使われていますが、歯科でむし歯予防に使用されるのは、フッ化ナトリウムや モノフルオロリン酸ナトリウムなどのフッ化物です。

インターネットでは、「フッ素」「フッ化物」「フッ化水素」が混同されて紹介されることがあります。しかし、これらは化学的に異なる物質であり、性質や用途も大きく異なります。
同じ元素でも、組み合わせによって性質は大きく変わります。

同じように、**フッ化水素(HF)**は、水素(H)とフッ素(F)からなる化学物質で、工業などで使用される強い腐食性をもつ酸です。高濃度では人体に重い障害を起こす危険があります。

一方、歯科でむし歯予防に使用されるのは、これとは化学的に異なるフッ化物です。代表的なものには、

  • フッ化ナトリウム(NaF)
  • モノフルオロリン酸ナトリウム(Na₂PO₃F)

があります。

これらは、フッ化水素とは化学的性質が異なる化合物であり、厚生労働省の承認を受けた歯磨剤や歯科用医薬品などにも使用されています。長年にわたる使用実績と研究の積み重ねにより、安全性と有効性が評価されています。¹⁻⁵

歯科用フッ化物の急性中毒

フッ化物も、短時間に極めて大量に摂取すると、吐き気、腹痛、嘔吐などが起こることがあります。²

しかし、年齢に応じた使用量を守っていれば、中毒が問題となる量に達することは通常ありません。

注意が必要なのは、小さなお子さんがフッ化物洗口剤の顆粒製剤を誤って大量に飲み込む場合です。これらは子どもの手の届かない場所に保管しましょう。²

子ども用歯磨き剤は果物などの風味が付いているため、小さなお子さんが興味を示して口にすることがあります。使用後は必ず子どもの手の届かない場所に保管しましょう。²

万が一、大量に飲み込んでしまった場合は、速やかに医療機関や中毒相談窓口に相談してください。牛乳などカルシウムを含む飲み物を飲ませることが勧められる場合もあります。吐き気や嘔吐、腹痛などの症状がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。²

歯のフッ素症

歯のフッ素症は、永久歯がつくられる時期、特に前歯では出生後から3歳頃までに、過剰なフッ化物を継続的に摂取した場合に生じることがあります。⁶

世界では、飲み水(地下水や井戸水など)に高濃度のフッ化物が自然に含まれる地域で多くみられます。一方、日本ではそのような地域は少なく、審美的な問題となる中等度以上のフッ素症はまれです。⁶

多くは軽度で、歯の表面に白い線や白斑がみられる程度です。軽度であれば、通常、歯の機能に問題が生じることはありません。

歯のフッ素症は、歯がつくられる時期に起こる変化であり、**エナメル質の形成が完了した歯には生じません。**そのため、成人になってからフッ化物配合歯磨剤を使用しても、歯のフッ素症になることはありません。⁶

子どもの脳の発達への影響

一部の研究では、飲み水に含まれるフッ化物の量と子どものIQとの関連が報告されています。研究によっては、フッ化物を多く摂取していた子どもの方がIQが低い傾向を示したものもあります。⁸

しかし、この結果がフッ化物だけの影響によるものなのか、それとも栄養状態や家庭環境、教育環境など、ほかの要因が影響しているのかを、現在の研究だけで完全に区別することはできません。そのため、現時点では一定した結論には至っていません。⁷⁻⁸

これらの研究は、飲み水としてフッ化物を毎日体に取り入れた場合を調べたものです。一方、フッ化物配合歯磨剤やフッ化物洗口、歯科医院で行うフッ化物歯面塗布は、歯に作用させることを目的としており、基本的には飲み込まずに使用します。そのため、飲み水から継続的にフッ化物を摂取する場合とは、使用方法や体内に取り込まれる量が大きく異なります。このため、飲み水を対象とした研究結果を、そのまま歯科でのフッ化物応用に当てはめることはできません。⁷⁻⁸

日本でのフッ化物の使い方

日本では、フッ化物配合歯磨剤、フッ化物洗口、歯科医院でのフッ化物歯面塗布が広く行われています。これらはいずれも、むし歯予防効果が示されている方法です。³⁻⁵

日本口腔衛生学会では、年齢に応じて次のようなフッ化物配合歯磨剤の使用を推奨しています。¹

一方で、フッ化物配合歯磨剤は、一定の範囲では濃度が高いほど、むし歯予防効果が高まることが報告されています。³

そのため当院では、年齢だけでなく、ブクブクうがいや吐き出しの状況、むし歯のリスクなどを歯科医師が総合的に判断し、一人ひとりに合った濃度をご提案しています。

インプラント・セラミック・コンポジットレジンへの注意点

インプラントやセラミック(ポーセレン)、コンポジットレジン(白い詰め物・被せ物)を使用している方では、歯科医院でのメンテナンス時に使用するフッ化物製剤の選択に注意が必要な場合があります。

酸性の高濃度フッ化物製剤では、チタン(インプラント)やコンポジットレジン、セラミックの表面に影響を及ぼす可能性が報告されています。**⁹

一方、**市販のフッ化物配合歯磨剤や中性フッ化ナトリウム製剤を通常どおり使用することについては、現在の科学的根拠から大きな問題はないと考えられています。**⁹

そのため当院では、インプラントやセラミック、コンポジットレジンなどの歯科材料の有無や、むし歯のリスクを確認したうえで、**歯科医師が患者さん一人ひとりに適したフッ化物製剤を選択しています。**⁹

フッ化物を使用しない場合

フッ化物を使用しない場合でも、むし歯予防を行うことは可能です。

例えば、

  • 丁寧な歯磨き
  • 糖分の摂取回数を減らす食生活
  • シーラント
  • 定期的な歯科健診・プロフェッショナルケア

などを組み合わせることで、むし歯のリスクを減らすことが期待できます。

**一方で、フッ化物によるむし歯予防効果は、長年にわたる多くの研究で確認されています。現在の科学的根拠を踏まえると、フッ化物を適切に活用しないことは、その予防効果を十分に生かせない可能性があります。**³⁻⁵

むし歯予防で大切なこと

フッ化物は、現在の科学的根拠に基づき、安全性とむし歯予防効果が確認されている方法です。しかし、フッ化物だけでむし歯を完全に防ぐことはできません。

むし歯予防で最も大切なのは、糖分の摂り方を意識した食生活です。

むし歯は、糖分を口にするたびに歯の表面で脱灰(歯が溶けること)が起こり、それが繰り返されることで進行します。そのため、糖分の量だけでなく、摂取する回数やタイミングを意識することが重要です。

そのうえで、毎日の歯みがきやフロスなどのセルフケアを続け、フッ化物を補助的に活用することで、高いむし歯予防効果が期待できます。

歯科医院では、生活習慣やむし歯のリスクを確認し、一人ひとりのお口の状態に合わせた予防方法をご提案しています。

毎日のセルフケアと歯科医院での専門的な予防を組み合わせながら、むし歯になりにくいお口を一緒に目指していきましょう。


参考文献

【1】日本口腔衛生学会フッ化物応用委員会.
う蝕予防のためのフッ化物配合歯磨剤応用マニュアル 第2版.
日本口腔衛生学会; 2023.

【2】American Academy of Pediatric Dentistry.
Use of Fluoride for Caries Prevention.
In: The Reference Manual of Pediatric Dentistry.
Chicago, IL: American Academy of Pediatric Dentistry; 2024.

【3】Walsh T, Worthington HV, Glenny AM, Marinho VCC, Jeroncic A.
Fluoride toothpastes of different concentrations for preventing dental caries.
Cochrane Database Syst Rev. 2019;3:CD007868.

【4】Marinho VCC, Worthington HV, Walsh T, Clarkson JE.
Fluoride mouthrinses for preventing dental caries in children and adolescents.
Cochrane Database Syst Rev. 2016;7:CD002284.

【5】Marinho VCC, Worthington HV, Walsh T, Clarkson JE.
Fluoride varnishes for preventing dental caries in children and adolescents.
Cochrane Database Syst Rev. 2013;7:CD002279.

【6】Fejerskov O, Nyvad B, Kidd EAM, editors.
Dental Caries: The Disease and Its Clinical Management. 3rd ed.
Oxford: Wiley-Blackwell; 2015.

【7】National Toxicology Program.
Monograph on the State of the Science Concerning Fluoride Exposure and Neurodevelopment and Cognition.
Research Triangle Park, NC: National Toxicology Program; 2024.

【8】Taylor KW, Eftim SE, Sibrizzi CA, Blain RB, Magnuson K, Hartman PA, Rooney AA, Bucher JR.
Fluoride Exposure and Children's IQ Scores: A Systematic Review and Meta-Analysis.
JAMA Pediatrics. Published online January 6, 2025.
doi:10.1001/jamapediatrics.2024.5542.

【9】「眞木吉信『根拠に基づいた医療(EBM)からのフッ化物配合歯磨剤Update』歯界展望 2023」



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