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2026年7月9日付の日本経済新聞朝刊では、厚生労働省が加熱式たばこに関する規制の見直しについて、現時点では紙巻きたばこと同等の規制を見送る方向で検討していると報じられました。¹
その要因の一つとして、受動喫煙による健康影響に関する科学的知見が十分に蓄積されていないことが挙げられます。¹
加熱式たばこでは、燃焼による煙ではなく、加熱によって生じるエアロゾルが発生します。周囲の人がこのエアロゾルを吸い込むことを、加熱式たばこの受動喫煙といいます。
このエアロゾルの健康影響について、厚生労働省は今後も研究を継続する方針としています。¹

一方で、口腔内への影響については状況が異なります。
この10年ほどで研究が急速に増え、歯周病や歯ぐきの炎症、創傷治癒、インプラント周囲組織、口腔粘膜などへの影響を検討した報告が数多く発表されています。²⁻⁵
すべての研究が「紙巻きたばこと同程度の悪影響がある」と結論づけているわけではありません。一方で、口腔への影響がないことを示す科学的根拠も十分ではありません。しかし、これまでに報告された多くの研究では、非喫煙者と比較して歯周病や歯ぐきの炎症、細胞への影響が認められており、歯科医療の現場では注意が必要と考えられています。²⁻⁵
歯周病との関連
これまでに行われた複数の研究では、加熱式たばこの使用者は非喫煙者と比較して歯周病や歯ぐきの炎症を認める割合が高いことが報告されています。²,³
また、歯周病の進行に関わる炎症反応や体の防御反応に変化が生じることも報告されており、歯周組織に慢性的な炎症を引き起こす可能性が示唆されています。²,³
紙巻きたばこと比較すると影響は小さいとする報告もありますが、現時点では一定した結論には至っていません。²
傷の治りへの影響
加熱式たばこにもニコチンが含まれています。ニコチンには血管を収縮させる作用があるため、歯ぐきの血流が低下し、傷の治りに影響を及ぼす可能性があります。³
そのため、抜歯後や歯周外科治療、インプラント手術後では、傷の治りが遅くなる可能性が指摘されています。³
ニコチンを含む製品は加熱式たばこ以外にもあります。近年話題となっているニコチンパウチについては、関連記事で詳しく解説しています。
インプラントへの影響
近年では、加熱式たばこのエアロゾルがインプラント周囲組織にも影響を及ぼす可能性が報告されています。⁴
研究室で培養した細胞を用いた研究では、歯を支える骨や歯ぐきの組織をつくり修復する細胞の働きが低下することが報告されています。⁴
ただし、これらは研究室で行われた実験の結果です。実際にお口の中で機能しているインプラントにどの程度影響するのかについては、長期の臨床研究がまだ十分ではなく、現時点では一定した結論には至っていません。⁴
お口の粘膜の影響
研究室内で、口の中や歯ぐきをつくる細胞を用いた実験では、加熱式たばこのエアロゾルによって酸化ストレスや炎症反応が引き起こされることが報告されています。⁵
また、細胞の増殖や修復能力が低下する可能性も示されており、口腔粘膜の健康維持に影響を及ぼすことが示唆されています。⁵
紙巻きたばこと比べて細胞への影響は小さいとする報告もありますが、非喫煙者と同等の安全性が示されたわけではありません。⁵
口臭への影響
加熱式たばこは紙巻きたばこに比べて臭いが少ないと感じる人もいます。
しかし、近年の研究では、加熱式たばこ使用者では唾液の性状が変化する可能性が報告されています。⁵
こうした変化は口臭にも影響する可能性がありますが、加熱式たばこと口臭との関係については、現時点では研究が限られており、今後さらに検証が必要です。⁵
禁煙が難しい場合の考え方
ここまで、加熱式たばこが歯周病や傷の治り、インプラントなどに及ぼす影響についてご紹介しました。では、禁煙が難しい場合はどのように考えればよいのでしょうか。
例えば、歯周病治療を受けている方の中には、「禁煙した方が良いことは分かっているけれど、なかなかやめられない」という方もいらっしゃいます。
喫煙している方でも、歯周病治療によって改善が期待できることが報告されています。⁶ ただし、禁煙した方がより高い治療効果が得られることも示されています。⁶これは紙巻きたばこを対象とした研究ですが、加熱式たばこにもニコチンが含まれることを踏まえると、同様の考え方が当てはまる可能性があります。
そのため当院では、歯周病治療やインプラント治療、抜歯など傷の治癒が重要となる処置を受けられる患者さんには、加熱式たばこを含めた禁煙をおすすめしています。しかし、禁煙できなかったからといって治療をあきらめる必要はありません。
歯周病治療や毎日のセルフケアを継続し、「お口の健康を良くしたい」という意識を持ち続けることが、長期的な歯周病の改善につながると当院では考えています。
患者さん一人ひとりの生活背景やお気持ちを尊重しながら、無理のない治療と生活習慣の改善を一緒に考えていきます。
参考文献
- 日本経済新聞. 「加熱式たばこの規制『紙巻き並み』見送りへ」2026年7月9日朝刊(掲載面を追記)。
- D'Ambrosio F, Pisano M, Amato A, et al. Periodontal and Peri-Implant Health Status in Traditional vs. Heat-Not-Burn Tobacco and Electronic Cigarettes Smokers: A Systematic Review. Dent J (Basel). 2022;10(6):103.
- Doya K, Imamura K, Mori S, et al. Investigating the Effects of Heated Tobacco Products on Periodontal Healing: Insights From In Vivo and In Vitro Experiments. Cureus. 2025;17:e80733.
- Morishita Y, Hasegawa S, Koie S, et al. Effects of Heated Tobacco Products and Conventional Cigarettes on Dental Implant Wound Healing: Experimental Research. Ann Med Surg (Lond). 2023;85:1366-1370.
- Sever E, Božac E, Saltović E, et al. Impact of the Tobacco Heating System and Cigarette Smoking on the Oral Cavity: A Pilot Study. Dent J (Basel). 2023;11(11):251.
- Chang J, Zhao Y, Huang Y, et al. The impact of smoking on non-surgical periodontal therapy: A systematic review and meta-analysis. J Clin Periodontol. 2021;48(1):60-75. doi:10.1111/jcpe.13392







