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2026.07.05
お口の健康
妊娠すると歯が弱くなるって本当?

「妊娠すると赤ちゃんにカルシウムを取られて歯が弱くなる」と耳にしたことがある方もいるかもしれません。しかし、この考え方を支持する科学的な根拠は現在ありません。妊娠中に赤ちゃんの骨や歯の形成に必要なカルシウムは、主に母親の食事や骨から調節されて供給されます。一方、歯の表面を覆うエナメル質は骨のように全身のカルシウム代謝に利用される組織ではないため、妊娠によって歯からカルシウムが溶け出し、歯が弱くなることはないと考えられています。¹²

なお、歯を支える歯槽骨は骨組織であるため、エナメル質とは性質が異なります。しかし、妊娠によって歯槽骨のカルシウムが赤ちゃんへ移行し、それが原因で歯槽骨が吸収されるという科学的根拠もありません。歯槽骨が失われる主な原因は歯周病です。妊娠中はホルモンの影響によって歯肉炎が起こりやすくなるほか、プラーク(歯垢)が蓄積すると歯周病へ進行したり、すでに歯周病がある場合には悪化したりすることがあります。そのため、妊娠中は適切な口腔ケアと定期的な歯科管理が重要です。³⁴

妊娠中にむし歯が増えやすい理由

妊娠中にむし歯が増えやすい理由は、歯そのものが弱くなるためではありません。つわりによる歯みがきの困難、間食回数の増加に加え、唾液の性質が変化することも報告されており、これらの要因によって口腔内の環境が変化することが主な原因と考えられています。³⁴

酸っぱい食べ物との上手な付き合い方

妊娠中は、レモンや梅干しなど酸っぱい食べ物を食べたくなる方が少なくありません。ただし、すべての妊婦さんにみられるわけではなく、個人差があります。その理由は現在も十分には解明されていませんが、ホルモンバランスや味覚・嗅覚の変化、つわりなどが関係している可能性が考えられています。

酸っぱい食べ物を食べること自体に問題はありませんが、酸性の食品や飲み物を頻繁に摂取すると、歯の表面が少しずつ溶ける「酸蝕症」のリスクが高まります。⁶⁷

そのため、酸っぱい食べ物を我慢する必要はありませんが、長時間だらだらと食べ続けることはできるだけ避けましょう。また、食後は水やお茶で口をすすぐことで、お口の中の酸を洗い流すことができます。フッ化物配合歯みがき剤やフッ化物洗口液を活用することも、歯の表面を守るために役立ちます。⁸

妊娠中は歯ぐきも腫れやすい

妊娠中は、エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンが大きく変化することで、歯ぐきが炎症を起こしやすくなります。このような状態は妊娠性歯肉炎と呼ばれ、妊婦さんによくみられる口腔内の変化の一つです。³⁴

症状としては、歯ぐきが赤く腫れる、歯みがきの際に出血する、腫れぼったさを感じるなどがあります。ホルモンの影響だけで歯肉炎が起こるわけではなく、歯に付着したプラーク(歯垢)に対する炎症反応が強くなることが大きく関係しています。³

適切なセルフケアと歯科医院での専門的なクリーニングを行うことで、多くの場合は症状の改善が期待できます。一方で、歯肉炎を放置すると歯周炎へ進行する可能性もあるため、歯ぐきの出血や腫れが続く場合は、早めに歯科医院で相談することをおすすめします。³⁴

つわりで歯ブラシがつらいときは無理をしない

つわりが強い時期には、歯ブラシを口に入れること自体がつらく、歯みがきができない方もいます。そのような場合は、無理をして通常どおり歯みがきを続ける必要はありません。体調の良い時間帯に短時間だけ磨く、ヘッドの小さい歯ブラシを使用するなど、ご自身に合った方法を選ぶことが大切です。³

また、つわりによる嘔吐を繰り返すと、胃酸によって歯の表面が溶ける「酸蝕症(さんしょくしょう)」が生じることがあります。胃酸は非常に強い酸性であるため、繰り返し歯に触れるとエナメル質が徐々に失われ、知覚過敏や歯の摩耗につながることがあります。⁶⁷

嘔吐した直後は歯の表面が一時的に軟らかくなっているため、すぐに歯を磨くことは避け、まずは水や重曹水などで口をよくすすぎます。その後、1時間程度経ってから歯みがきを行うことが勧められています。⁴⁷

当院では、歯ブラシを口に入れること自体がつらい方や、歯みがき粉の味や香りで吐き気が強くなる方に対して、無味・無臭のフッ化物洗口液(オラブリスなど)の使用をご案内しています。歯みがきが難しい時期でも取り入れやすく、一時的な代替手段としてむし歯予防の補助に活用できます。症状が落ち着いたら、できる範囲で歯みがきを再開していくことが大切です。⁸

産後もお口の健康に注意

一方で、「出産後に歯が悪くなった」と感じる方も少なくありません。産後は新生児中心の生活となり、授乳や夜間の対応などで生活リズムが大きく変化します。そのため、規則的な食事や口腔ケアを維持することが難しくなり、歯科受診も後回しになりがちです。こうした生活の変化によって、妊娠中から続いていたむし歯や歯肉炎が進行し、産後になって症状として現れることがあります。⁴

安定期は歯科メンテナンスを受けるよい機会

妊娠中は歯科受診を控えた方がよいと思われることがありますが、妊娠中であっても必要な歯科治療やメンテナンスを受けることは、お口の健康を維持するうえで重要です。³

一般的には、つわりが落ち着き体調が安定しやすい妊娠中期(安定期)は、歯科健診やメンテナンスを受けやすい時期とされています。³

歯科医院では、むし歯や歯周病のチェックだけでなく、専門的なクリーニングや歯みがき指導、フッ化物の活用方法、つわりの時期に合わせたセルフケアについても相談できます。妊娠性歯肉炎は適切な口腔ケアによって改善が期待できるため、症状が軽いうちに対応することが大切です。³⁴

また、出産後は育児が優先となり、歯科受診の時間を確保することが難しくなる方も少なくありません。安定期のうちにお口の状態を確認し、必要な治療やメンテナンスを受けておくことは、出産後のお口の健康を守るうえでも役立ちます。⁴

川崎市では、妊婦さんとパートナーを対象とした**「歯っぴーファミリー健診」**を実施しています。当院でも受診できますので、この機会にお口の健康状態を確認してみてはいかがでしょうか。

参考文献

  1. National Institutes of Health Office of Dietary Supplements. Calcium Fact Sheet for Health Professionals. (閲覧日:2026年7月)
  2. American College of Obstetricians and Gynecologists. Nutrition During Pregnancy. (閲覧日:2026年7月)
  3. American College of Obstetricians and Gynecologists. Oral Health Care During Pregnancy and Through the Lifespan. Committee Opinion No. 569. Obstet Gynecol. 2013;122:417-422.
  4. Oral Health Care During Pregnancy Expert Workgroup. Oral Health Care During Pregnancy: A National Consensus Statement. National Maternal and Child Oral Health Resource Center; 2012.
  5. (妊娠中に酸っぱい食べ物を好む理由については、現在も十分に解明されておらず、本文では引用番号を付していません。)
  6. Lussi A, Carvalho TS. Erosive tooth wear: a multifactorial condition of growing concern and increasing knowledge. Monogr Oral Sci. 2014;25:1-15.
  7. Wiegand A, Schlueter N. The role of oral hygiene: does toothbrushing harm? Monogr Oral Sci. 2014;25:215-219.
  8. 日本口腔衛生学会. フッ化物応用の科学. 口腔保健協会.

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駐車場あり 川崎市宮前区神木1-5-2

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