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「歯周病を治療すると、血糖値も改善するのでしょうか。」
近年、このテーマについて多くの研究が行われています。
糖尿病と歯周病は、それぞれ独立した病気ではなく、お互いに影響し合う「双方向の関係」があることが明らかになってきました。[1]
さらに、複数の研究を総合的に検討した研究では、歯周基本治療を受けた糖尿病患者さんで、HbA1c(過去1〜2か月の血糖状態を示す指標)が平均約0.4%改善したことが報告されています。[2]
もちろん、すべての患者さんで同じような改善が得られるわけではありません。
しかし、この結果は一つの疑問を生みます。
なぜ、歯周病治療によって血糖値(HbA1c)が改善するのでしょうか。
炎症だけでは説明できないかもしれません
歯周病では、歯ぐきの慢性的な炎症によって炎症性物質が全身へ放出され、インスリンの働きを妨げることが知られています。
歯周病治療によって炎症が改善すれば、血糖コントロールにも良い影響を及ぼすことは十分考えられます。[1]
一方で、それだけでは今回の研究結果を十分に説明できない部分もあるのではないかと感じています。
なぜ「継続管理」が重要なのでしょうか
歯周病は、一度歯石を除去すれば終わる病気ではありません。
炎症を安定した状態で維持するためには、定期的なメインテナンスが欠かせません。
特に**根分岐部病変(奥歯の根が分かれた歯ブラシが届きにくい部分)**では、毎回プラークコントロールの状態を確認します。
十分に清掃できていない場合には、ブラッシング方法や補助清掃器具を見直し、必要に応じて次の治療方針を提案します。
また、歯周病が進行した歯では、「抜歯するべきか、それとも保存できるか」という判断に悩むことがあります。
しかし、歯そのものの状態だけで予後が決まるわけではありません。
患者さんが継続してメインテナンスに通院できるか。
毎日のセルフケアを続けられるか。

糖尿病など全身の病気が安定しているか。
こうした要素も、歯を長く残せるかどうかを左右する重要な因子になります。
歯ぐきの変化は全身の健康を映すことがあります
糖尿病もまた、一度治療すれば終わる病気ではありません。
食事、運動、服薬などを継続しながら、長期的に血糖コントロールを行っていく必要があります。
歯科のメインテナンス中に、これまで安定していた歯ぐきの炎症が急に悪化することがあります。

セルフケアが変わっていないにもかかわらず炎症が強くなった場合には、血糖コントロールの悪化が背景にある可能性も考えられます。
そのような場合には、必要に応じて内科主治医と情報を共有しながら治療を進めることも重要です。
歯科医院でのメインテナンスは、お口の健康を維持するためだけではなく、全身の健康状態の変化に気づく機会にもなります。
歯周病と糖尿病に共通するキーワードは「行動変容」です
ここから先は、研究で直接証明された事実ではなく、日々の診療を通じて感じている一つの臨床的な考察です。
歯周病治療によるHbA1cの改善については、歯ぐきの炎症が改善することが主な要因の一つと考えられています。
前半で触れた**「炎症だけでは説明しきれない部分」**について、私は継続管理による行動変容が関わっているのではないかと考えています。
継続的な歯周病管理を通じて患者さんの**行動変容(これまでの生活習慣を見直し、健康につながる行動へ変えていくこと)**が起こることも、全身の健康に良い影響を与えている可能性があります。

研究で示されたHbA1cの改善は比較的短期間の変化ですが、実際の診療では、メインテナンスを継続する中で生活習慣が少しずつ変わっていく患者さんも少なくありません。
定期的なメインテナンスを続ける中で、歯みがきや補助清掃器具の使い方が変わる。食生活や喫煙、糖尿病治療への意識が変わる。このような変化が積み重なることで、歯周病の安定だけでなく、血糖コントロールにも良い影響を及ぼしている可能性があります。
実際に、患者教育によってセルフケア行動や自己効力感が向上することは報告されています。また、口腔セルフケアと血糖コントロールとの関連を示した研究もあります。ただし、これらの研究だけで**「行動変容がHbA1cを改善させる」と結論づけることはできません。**[3,4]
だからこそ、歯科での継続的な関わりは、歯を守るだけではなく、患者さん自身が健康を管理する力を支える役割も担っていると考えています。
お口は生活習慣の鏡です
歯周病は細菌感染によって起こる病気ですが、その経過には生活習慣が大きく関わります。
毎日のセルフケア、食生活、喫煙、糖尿病などの全身状態は、歯ぐきの炎症として現れることがあります。
だからこそ、歯科医院での継続的なメインテナンスは、歯を守るだけではありません。
患者さんがお口の健康をきっかけに生活習慣を見直し、自ら健康を管理できるよう支援することも、私たち歯科医療従事者の大切な役割だと考えています。
参考文献
- Graves DT, Ding Z, Yang Y. The impact of diabetes on periodontal diseases. Periodontol 2000. 2020;82(1):214-224.
- Simpson TC, Weldon JC, Worthington HV, et al. Treatment of periodontal disease for glycaemic control in people with diabetes mellitus. Cochrane Database Syst Rev. 2022;(4):CD004714.
- Hassan N, et al. An oral health education programme to improve oral health behaviour among patients with type 2 diabetes mellitus: A randomized controlled trial. Int Dent J. 2017.
- AlQarni MA, et al. Oral self-care behaviours and glycaemic control in adults with diabetes: A cross-sectional study. BMC Oral Health. 2023.







