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痛みの強さを0〜10で評価する尺度(NRS)では、歯髄炎の痛みは平均8点前後と報告されています。
0点が「全く痛くない」、10点が「想像できる最悪の痛み」です。
実際の診療でも、
「痛くて眠れなかった」
「仕事に集中できなかった」
「頭まで痛くなった」
と訴える患者さんは少なくありません。
つまり歯髄炎は、数ある痛みの中でも強い部類に入る痛みといえるでしょう。
このような強い痛みであれば、仕事への影響は容易に想像できます。
一方で今回の研究が興味深いのは、歯髄炎のような激しい痛みだけでなく、口内炎や顎関節痛などを含む「口やその周辺の痛み全般」が労働生産性の低下と関連していた点です。
実際、口の中や顎の痛みは、集中力を低下させたり、会話や食事をしづらくしたりすることで、仕事の効率に影響を与える可能性があります。
今回は、日本の大規模調査で報告された「口腔内の痛みと労働生産性」の関連について紹介します。

3人に1人が“口の痛み”を経験
この研究では、日本の労働者9,155人を対象に調査が行われました。
その結果、過去1年間に口腔内の痛みを経験した人は32.4%。
つまり、約3人に1人が何らかの口の痛みを抱えていたことになります。
注目されたのは「プレゼンティーズム」
研究では、仕事への影響を「休んだかどうか」だけでなく、「出勤していても十分に力を発揮できたか」という視点から評価しています。
今回の結果で特徴的だったのは、口の痛みがある人では仕事のパフォーマンスが低下していたという点です。
つまり、仕事を休むほどではないものの、痛みのために集中力が低下したり、本来の能力を十分に発揮できなかったりする状態との関連が示されました。
このように、出勤はしていても健康上の問題によって生産性が低下している状態を「プレゼンティーズム」と呼びます。
実際の診療でも、「痛みで仕事に集中できなかった」「会議中も歯のことばかり気になった」と話される患者さんは少なくありません。
今回の研究は、そのような日常診療で感じることをデータで裏付ける結果だったといえるでしょう。

プレゼンティーズムは子どもにも起こる
研究では、口腔内の痛みがある人で「絶対的プレゼンティーズム」が約5%低下していました。
5%という数字は小さく見えるかもしれません。しかし、口の痛みは集中力を低下させるだけでなく、会話や食事をしづらくしたり、睡眠に影響したりすることがあります。仮に100人の従業員がいる職場で全員の生産性が5%低下すれば、企業全体としては決して小さくない損失になります。
その結果、本来発揮できるはずのパフォーマンスが少しずつ低下してしまうのかもしれません。
今回の研究対象は労働者ですが、口の痛みによる集中力低下という影響は、勉強に取り組む子どもにも起こり得るかもしれません。
例えば中学受験を控えたお子さんでは、動揺した乳歯や口内炎が気になり、勉強や試験に集中できなくなることがあります。
特にグラグラした乳歯があると、つい舌で押したり、指で触ったりしてしまうものです。
勉強中も歯のことが気になり、本来向けるべき注意がそちらに向いてしまうことがあります。
大切な試験を控えている場合は、動揺した乳歯が試験直前に脱落しそうでないか、一度歯科医院で相談しておくと安心です。

健康経営だけではない、「健康受験」の視点も
近年は「健康経営」という考え方が広がっています。
その中で、定期歯科検診や受診しやすい環境整備、口腔ケアの啓発といった取り組みは、従業員の健康だけでなく、生産性の維持にもつながる可能性があります。
また、受験生にとっても、試験本番で本来の力を発揮するためには口腔の健康管理が重要です。
企業における「健康経営」と同様に、受験生にとっての「健康受験」という視点も大切なのかもしれません。

まとめ
今回の研究では、「口腔内の痛み」が欠勤よりも“仕事効率の低下”に関連している可能性が示されました。
また、この考え方は働く大人だけでなく、受験勉強に取り組む子どもたちにも当てはまるかもしれません。
歯や口のトラブルは命に関わる症状ではないため、つい後回しにされがちです。
しかし、仕事や勉強で本来の力を発揮するためには、口腔の健康も重要な要素のひとつです。
「少し気になるけれど様子を見よう」と放置せず、症状があれば早めに歯科医院へ相談したいですね。
参考文献
- 和田健太郎, 衣川安奈, 小坂健, 竹内研時. 口腔内の痛みの有無と労働生産性との関連:JACSIS2024研究. 第74回日本口腔衛生学会学術大会 抄録集, P-26.
- Renton T, Durham J. Symptomatic irreversible pulpitis and other orofacial pain conditions. British Dental Journal. 2025;238:227-232.
- Michaelson PL, Holland GR. Is pulpitis painful? International Endodontic Journal. 2002;35(10):829-832.







