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2026.07.29
お口の健康
古来より歯は命に関わる病気だった

現代では、「虫歯や歯周病で命を落とすことはない」

と思われがちです。

しかし歴史を振り返ると、歯の病気は命に関わる深刻な疾患でした。

「歯はあらゆる病気の感染源である」

17世紀フランス。

ヴェルサイユ宮殿に君臨した太陽王ルイ14世の侍医アントワーヌ・ダカンは、

「歯はあらゆる病気の感染の巣である」

と考えていたと伝えられています。

当時は抗菌薬もなく、歯の感染が顎骨炎や重篤な感染症へ進展することも珍しくありませんでした。

そのため人々は経験的に、

「口の病気は全身の病気につながる」

と考えていたのです。

もちろん現代の医学から見れば、この考え方は極端です。

しかし興味深いことに、「口の健康と全身の健康は関係している」という発想そのものは、現代の研究によって再び注目されています。

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日本でも歯の病気は命に関わっていた

日本でも歯の病気は決して軽いものではありませんでした。

江戸時代には虫歯や歯性感染症によって重篤な状態に陥る例があり、歯の病気は時に生命を脅かす存在でした。

また、徳川幕府第14代将軍・徳川家茂は重度の虫歯を患っていたことが知られています。家茂の直接の死因は脚気とされていますが、重度の口腔疾患によって十分な食事摂取が困難であったことが病状に影響した可能性も指摘されています。

つまり昔の人にとって歯の病気は、

「歯が痛い病気」

ではなく、

「命に関わる病気」

だったのです。

病巣感染説から現代医学へ

20世紀初頭になると、

「口の中の感染が全身の病気を引き起こす」

という病巣感染説が提唱されました。

その結果、歯や扁桃腺を予防的に摘出する治療が広く行われるようになりました。

しかし後になって、

「口の病巣を除去すれば全身病が治る」

という極端な考え方を支持する十分な証拠は得られず、病巣感染説は見直されることになります。

一方で、歯性感染症や口腔内炎症が全身に影響を及ぼすこと自体が否定されたわけではありませんでした。

そして現代では、「口と全身の健康」のつながりが改めて注目されています。

再び注目される「口と全身の健

近年の研究では、歯周病は単に歯ぐきの病気ではなく、

・糖尿病
・心筋梗塞
・脳卒中
・認知症
・慢性腎疾患
・誤嚥性肺炎
・関節リウマチ
・炎症性腸疾患

などとの関連が数多く報告され、その数は100種類を超えるともいわれています。

特に糖尿病との関係は強く、

・糖尿病は歯周病を悪化させる
・歯周治療は血糖コントロール改善に寄与する

という双方向の関係があることが分かっています。

また現在は、

「歯周病菌が全身を悪くする」

という単純な話ではなく、

・歯周病による慢性的な炎症
・免疫バランスの変化
・口腔細菌叢の乱れ
・腸内細菌叢への影響

など、さまざまな仕組みが関与していると考えられています。

昔の人の直感は完全な間違いではなかった

ダカンの

「歯はあらゆる病気の感染の巣である」

という主張は科学的には正確ではありません。

しかし、

「口の健康が全身の健康に影響する」

という考え方そのものは、現代科学によって少しずつ裏付けられています。

昔は虫歯や歯性感染症が直接命を奪いました。

そして現代では、歯周病による慢性炎症が糖尿病や心血管疾患、認知症などの全身疾患に関与する可能性が明らかになりつつあります。

時代は変わっても、

「口は全身の健康の入り口である」

という事実は変わらないのかもしれません。

参考文献

  1. 山崎和久. 「歯周病と全身の健康」. 令和2年度日本歯科医師会生涯研修セミナー. 
  2. Socransky SS, Haffajee AD. Dental biofilms: difficult therapeutic targets. Periodontology 2000. 2002;28:12-55.
  3. Hajishengallis G, Darveau RP, Curtis MA. The keystone-pathogen hypothesis. Nature Reviews Microbiology. 2012;10:717-725.
  4. Taylor GW. Bidirectional interrelationships between diabetes and periodontal diseases: an epidemiologic perspective. Annals of Periodontology. 2001;6:99-112.
  5. Chapple ILC, Genco R. Diabetes and periodontal diseases: consensus report of the Joint EFP/AAP Workshop. Journal of Clinical Periodontology. 2013;40(Suppl 14):S106-S112.
  6. 日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン2019.
  7. 日本歯周病学会. 糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 改定第2版.

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