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「オーラルフレイル」という言葉を聞いたことはありますか?
これは、噛む・飲み込む・話すなど、お口の機能が衰え始めた状態を指します。
これまでは高齢者の問題として語られることが多かったのですが、最近では“働く世代”にも広がっていることが分かってきました。
川崎市川崎区殿町エリアで実施された調査
2025年1月から3月にかけて、神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーション研究科により、神奈川県川崎市川崎区殿町で事業に携わる日本人就労者343名を対象とした調査が行われました。
この研究では、オーラルフレイルの評価に「OF-5(Oral frailty 5-item Checklist)」が使用されています。
OF-5は、お口の機能低下のサインを簡便に評価するチェックリストで、項目のうち2つ以上に該当すると「オーラルフレイル」と判定されます。

調査の結果、約19%にオーラルフレイルが認められました。
つまり、働く世代でも「約5人に1人」がお口の機能低下のサインを持っている可能性があります。
川崎の臨海部・殿町エリアは、研究機関や企業も多く、まさに“働く世代”が集まる地域です。
その地域で行われた研究という点でも、とても興味深い内容だと感じます。
オーラルフレイルと関連していたのは「歯周病」と「孤独感」
この研究では、オーラルフレイルと関連する要因として、
不規則な睡眠や長時間の残業、年齢、歯周病、孤独感などが挙げられていました。
なかでも、重度歯周病と孤独感の強さは、統計学的にも有意な関連が認められていました。
お口の健康だけでなく、社会的・心理的な側面も、オーラルフレイルに深く関わっていることが示されています。
実際の診療でも感じる働き世代・子育て世代の問題
実際には、定期検診に通う時間が取れなかったり、痛みが出るまで受診を我慢してしまったりする方は少なくありません。
また、仕事や育児に追われるなかで、自分自身の健康にまで意識が向きにくくなっているケースもよく見られます。
特にお口の健康は、痛みがなければ受診の優先順位が下がりやすい分野です。
その結果、気づかないうちに歯周病が進行し、お口の機能低下が始まっているケースも少なくありません。

「孤独感」とオーラルフレイルの関係
この研究では、「孤独感」の強さもオーラルフレイルとの関連が示されていました。
一見すると、お口の問題と孤独感は関係ないように感じるかもしれません。
しかし、人との会話や食事の機会が減ることで、会話量が少なくなったり、食事が簡単なもので済みやすくなったりします。
また、外出や受診の機会が減るなど、生活習慣やお口の使い方にも変化が生じる可能性があります。
もちろん、「孤独だからオーラルフレイルになる」と単純に言えるわけではありません。
ただ、お口の健康は歯だけの問題ではなく、生活習慣や社会とのつながりとも関係していることを感じさせる結果だと思います。

忙しくなる前の対応が、将来の歯を守る
オーラルフレイルは、急に起こるものではありません。
小さな変化が積み重なり、将来的な食事・会話・全身の健康にも影響していきます。
だからこそ私は、「若いうちの対応」が将来のお口の健康を左右すると考えています。
特に気になるのは、20代前半の患者さんの親知らずです。
私自身、就職活動中の大学生の患者さんには、
「仕事が忙しくなる前に、自分でしっかりブラッシングして管理できない親知らずは抜歯を検討した方がいいですよ」
とお話しすることがあります。
親知らずは奥にあるため歯ブラシが届きにくく、むし歯や歯周病の原因になりやすい歯です。
管理が難しい状態のまま放置すると、親知らずだけでなく手前の大切な歯まで影響を受け、歯を失う原因になることもあります。
実際、親知らず周囲の炎症によって隣の歯に大きなダメージが及んでいるケースは珍しくありません。
学生のうちは通院時間を確保しやすくても、社会人になると受診のハードルは上がります。
だからこそ、“今のうちに管理しやすい環境を作っておく”という考え方も大切だと思っています。

「まだ若いから大丈夫」ではない時代へ
オーラルフレイルというと、高齢者の問題というイメージを持つ方も多いかもしれません。
しかし今回の研究では、働き世代においても、お口の健康や生活習慣、さらには社会とのつながりがオーラルフレイルと関係していることが示されました。
将来の健康は、ある日突然失われるものではありません。
忙しい毎日の中でも、お口の状態に少し目を向け、定期的にチェックを受けることが、将来の「しっかり食べる」「しっかり話す」を守る第一歩になるのではないでしょうか。
参考文献
1.久保田 悠,眞野晃寿.
「日本人就労者におけるオーラルフレイルと関連要因」.
神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーション研究科.
口腔衛生学会雑誌.第76巻増刊号,2026,P-25.







